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『食べて、祈って、恋をして』エリザベス・ギルバート

食べて、祈って、恋をして

本書の概要

本作は、自分探しの旅に出る女性の話であり、離婚後に旅をしたエリザベス・ギルバート本人が世界を旅して海外を旅して「精神と個人の探求」をしていた実体験に基づく回想録である。

この作品が世に出る前、彼女は旅費を捻出するために、出版社にアイディアを提案して前金を受け取ったという経緯がある。この経緯をどう受け取るかは読み手の自由だし、実のところ批判の対象にもなった。

ただ、個人的な感想としては、読者はファクトチェックをする立場じゃないし、作家は清貧でなくてもいいし、作者の人格と作品は切り分けるべきだと思う。読んで素直に面白いならそれでいいし、楽しめなければ自分との相性が悪いか、これが理解できるほどの経験を積んでいない。そうシンプルに考えるほうが読書はもっと楽しくなる。

あらすじ

著者のエリザベス・ギルバート(リズ)は35歳の時点で作家として成功を収めており、結婚もしていたが、夫との価値観の相違から離婚調停を開始することになる。その後に夫を忘れるための関係を持とうとするも失敗し、離婚も成立し、何もかも失ったと感じた彼女は、周囲の反対を押し切って、1年かけて旅をすることを決意する。

本作は、シンプルなタイトル通り、イタリア(食べて)、インド(祈って)、バリ(恋をして)を1年かけて成し遂げていくストーリーである。

所感

彼女は確かに完全な善人というわけではないし、旅を自己陶酔の手段にはしているとは思う(それは決して悪いことではない)が、現実逃避の手段にはしていないという点に好感が持てた。自分自身と前向きに向き合うために、異なる文化を知ろうとする姿勢がある。ただ、その内省力のせいで、自分をとことん追い詰めてしまうという弱点もあるのだが。

日本では宗教の素養を得る機会が少ないために、宗教やスピリチュアルと聞くとすべて胡散臭いものに感じられるという人もいるし、わたしもそういう類の話をすき好んでしようとは思わない。ただ、そういう先入観は抜きにして読んだ場合、ラブストーリーとして良作だ。また、作者の成長物語としてもエッセイとしても面白いと思う。

作家は自分の醜い部分を直視してそれを切り売りせねばならない……みたいな、それに近しいことをいわれる職業だが、彼女の旅先での心情はかなり赤裸々に描かれている。その打算、身勝手さ、甘さなどを見て、読むのが耐えがたいという人もいるかもしれない。

つまるところ、他人の感情を強く揺さぶるくらいには、正しい言語化がされていることでもあるんじゃないかと思った。作者はきっと、読者が思っている以上に深く自分の内面と向き合って、人生の困難を1つ乗り越えたのではないかなと感じた。