『アルケミスト 夢を旅した少年』パウロ・コエーリョ

本書の概要
『アルケミスト』はポルトガル語で書かれた幻想小説だ。1988年に発刊され、世界中で翻訳された。夢を追求する大切さ、自分を信じることの大切さについて考えさせられる本である。
マジックリアリズム(非日常を日常として描写する)の小説であり、ファンタジーとしての特色が強い。
ちなみに、『アルケミスト』は重訳された小説としても有名である。重訳とは、翻訳文(主に英語が多い)を翻訳し直すこと。つまり、英訳された本書が日本語訳されているということだ。
日本語で読んでも十分に魅力的な小説ではあるが、物語にとって重要な布石となる描写が省略されているという話も聞く。それほど、ポルトガル語の小説が全世界的に広まるというのが驚異的な出来事でもあったということだろう。
原作に充実に訳された本も読んでみたい。新訳の発表が待たれる作品の1つだ。
ちなみにパウロ・コエーリョは、大学進学したものの、突然学業を放棄して旅に出た人物でもあるらしい。ウィキペディアにはそれ以上の情報が載っておらず、なぜ学歴を捨てて旅立ったのか、かなり興味がある。
あらすじ
父親は少年を祝福した。少年は父親の目の中に、自分も世界を旅したいという望みがあるのを見た。それは、何十年もの間、飲み水と食べるものと、毎晩眠るための一軒の家を確保するために深くしまいこまれていたものの、今もまだ捨てきれていない望みだった。
『アルケミスト 夢を旅した少年』より
羊飼いの少年サンチャゴは、エジプトのピラミッドに宝物があるという夢を信じて旅に出ることにした。2年間を共に過ごしてきた羊たちを売って、砂漠を越え、ピラミッドを目指す。
少年は、旅の途中にさまざまな経験をする。災難に遭い、異文化との接触に怯え、未知のものに触れる喜びを感じる。旅先で出会った人たちとの交流と別れ、想像もしていなかった出来事を通して、人生の知恵を学んでいく。
所感
わたしが初めて『アルケミスト』を読んだのは高校生の頃だ。奇しくも同じ砂漠を舞台とした『星の王子さま(サン・テグジュペリ)』もそうだが、童話のような優しい文体で、あっさりと読めるのに、時々ハッとさせられるようなことが書かれている。
ただ、本書は、真にこの物語が必要な人と、読まなくても問題なく暮らしていける人とに分かれそうだ。読む人によって評価は二分するだろう。
ファンタジーとは非現実を通して現実をありのままに描写しようと試みるジャンルでもある。『アルケミスト』では、モノや出来事はたいてい何かのメタファーだ。少年はただ旅をしているのではなく、人生を生きているのだろうと思う。