『あの空の下で 』吉田修一

本書の概要
この小説は少し特殊な経緯がある。ANAの機内誌『翼の王国』で連載されていた短編をまとめたものと、旅のエッセイが一緒になったものなのだ。だが、飛行機の機内誌のために書かれた作品というだけあって、「旅」を中心に展開する。しかも、短くてサクッと読み終わる。
作者の吉田修一は、2002年に大衆小説と純文学のダブル受賞をしたことで話題を読んだ作家でもある。『パレード』で第15回山本周五郎賞を、『「パーク・ライフ』で第127回芥川龍之介賞を受賞した。
また、無類の台湾好きとしても知られている。頻繁に台湾へ渡航しており、現地でも人気の作家だ。また、台湾を舞台にした小説もある。
そのように、たびたび飛行機に乗るということもあって、ANAの機内誌に載せる短編を依頼されるに至ったのかもしれない。
あらすじ
生まれて初めて乗った飛行機で、圭介は「お兄ちゃんが無事でありますように」と祈り続けた。空に近い分、願い事が叶うような気がしてならなかった。
『あの空の下で』願い事 より
本書は、12本の短編と6本の海外旅行エッセイからなる。エッセイで取り上げられる国は、バンコク、ルアンパバン、オスロ、台北(タイペイ)、ホーチミン、スイスの6国だ。
どの話も、清々しくて独特の軽さを感じるような内容になっている。また、短編というよりはショートショートというほど短く、ともすると1本読むのに10分もかからないかもしれない。しかし、なんとなく「旅行に生きたいな」と考えている方の背中をぽんと推してくれるだろう。
所感
短い文章を一行ずつじっくりと読んで、余韻に浸るような楽しみ方をする本である。
短いので、普段はあまり本を読まないという方にも、進めやすい一冊だ。『翼の王国』に掲載されていたと言うだけあって、やはり旅の道中の機内で手に取りたい短編集だと思う。
地上で、あるいは旅行の予定がない方が手に取ると、ともすると物足りなさを感じるかもしれない。それくらい、「旅」に寄り添った構成であるともういえる。また、吉田修一は想像の余地を残すという手腕に長けた作家という印象がある。
希望に満ちた作品ばかりで、ほっこりとした気持ちに浸りたい時におすすめの一冊。これから旅行を検討している方は、本書を詠むとわくわくしてきて、早く飛んで降り立ちたいと願うだろう。飛行機に乗る旅行をする際には、ぜひこの一冊こそ、「旅のおとも」にしてほしいと思う。