『深夜特急』沢木耕太郎

本書の概要
『深夜特急』は、全6巻からなる紀行小説あるいはノンフィクション・エッセイだ。旅の本を題材にするなら外すことができない不朽の名作である。
『深夜特急』の主人公である「私」は、インドのデリーからイギリスのロンドンまで乗り合いバスで行こうと思いたち、勢いで日本を飛び出してしまう。ノンフィクション作家でもある著者が実際に経験した旅を下地に書かれた作品だ。
全6巻と聞くとボリュームのある内容に感じられるかもしれないが、1巻ずつは短いので、すぐに読み終えることができるだろう。
時に、バックパッカーのバイブルとまで言われることがある。1986年当時に若者だった日本人の心に「こんな旅がしてみたい!」という気持ちを芽生えさせた本でもある。
ちなみに、日テレの「進め!電波少年」という番組で、「ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」というかなり壮絶な企画をしていた……らしい。番組は見たことがないが、ユーラシア大陸横断ヒッチハイクの体験記があることだけは知っている。当時は若手だったお笑いコンビ・猿岩石が「ヒッチハイクをしながら、ロンドンまで行きなさい」と指令をくだされるのだ。
この企画からも、『深夜特急』の影響がうかがえる。
あらすじ
アパートの部屋を整理し、机の引出しに転がっている一円硬貨までかき集め、千五百ドルのトラベラーズ・チェックと四百ドルの現金を作ると、私は仕事のすべてを放擲して旅に出た。
『深夜特急1』より
『深夜特急』は、インドのデリーにある安いドミトリーに長居し、やることもないまま、その日その日を無為に過ごすところからスタートする。そこから、長い旅が始まり、終わりを迎えるまでが描かれている。
所感
旅の何気ない日常の光景が眼前に浮かんでくるような描写で、ぐんぐん読ませる。これを読み、仕事を放り出して旅に出てしまった人もいるんだろうなと思わせる名作だ。
日本から飛び出した「私」の持ち物といえば、服が数枚、抗生物質や正露丸が少し、本だって3冊しかない。国内旅行だってもうちょっと持っていくだろうという軽装である。
しかもこの時代にはインターネットもない。現地の地図を出すことはおろか、待ち合わせをするのにも事前にしっかりと落ち合う場所を決めておかないとうっかり会えなくなるような時代である。
女性にとって、行き当たりばったりな旅、特に海外で安宿に泊まることは、かなりのリスクを伴う。だからこそ、ちょっとだけ、うらやましいなと思うところもあった。