『キノの旅 -the Beautiful World-』時雨沢恵一

本書の概要
『キノの旅 -the Beautiful World-』は、2000年から刊行されている連作短編形式のファンタジーライトノベルである。作者である時雨沢恵一は軍事マニアであり、ガンマニアかつバイク好きとして有名なので、『キノの旅』でも描写を見れば元ネタが分かりそうな銃器やバイクがあるが、ファンタジー作品である『キノの旅』では、地球における銃器やバイクの名称は出てこない(ただし自身で本作をパロディした『学園キノ』ではバンバン出てくる)。
なお、この作品は毎回あとがきに凝っており、本編にかすりもしない嘘のあらすじや本編のパロディ風のあとがきもあれば、本編の途中に「あとがき」挟まれることすらある。作者はあとがきを先に読んでしまう派らしく、あとがきには一切のネタバレが含まれていない。
あらすじ
旅人のキノが、相棒のしゃべるモトラド(二輪車。空を飛ばないものだけを指す)のエルメスと共にさまざまな国を巡る一話完結型のストーリー。キノとエルメス以外にも、シズと陸、師匠と相棒、フォトとソウという主人公がいて、旅人たちが独特の価値観・技術・制度を持つ国と関わっていく。
基本的には、キノとエルメスが旅をする話が本編となる。シズと陸(途中からもう一人加わる)の話もキノ達と同じ時間軸であり、たびたびキノ達と出会うことがある。師匠と相棒の話はキノ達よりもかなり過去の時間軸である。キノが師匠と呼ぶ人物の若かりし頃の話であり、キノが回想をするシーンもある。フォトとソウの話はおそらくキノやシズたちと同じ時間軸で、移住先の国で撮影業を始めたフォト(通り名)と折りたたみ式モトラドであるソウの話だ。
『キノの旅』の世界には、さまざまな国家が点在している。それぞれ技術レベルや文明がまったく異なっており、原始的な生活を守る国家もあれば、先進的な技術に守られた国家もある。国ごと旅をしている国家もあれば、すでに滅んで廃墟となってしまった国もある。
所感
「……それでも行くかな? キノ。 道はいくらでもあるのに。自由に選べるのに」
『キノの旅 -the Beautiful World-』2巻より
旅人からの評判が著しく悪い国へあえて赴こうとするキノに対して、エルメスが言った言葉だ。この言葉は、キノの旅全体を表している言葉であるように感じる。
キノは明確な理由をもって旅をしているわけではない。この物語では、キノが何かを成し遂げるということは約束されていない。1巻では、「どうして旅を続けるの?」とエルメスに聞かれたとき、キノは「止めるのは、いつだってできる。だから、続けようと思う」と答える。
他の道もあるからこそ、あえて「旅」を「続ける」という道を選ぶキノの選択は、大人になったわたし達にも勇気をくれる。